生成AIサービスを日常的に使うようになってきた今でも、その裏側でどれだけの電力が消費されているかを意識する機会はあまり多くありません。ただ、海外ではすでに、大手テック企業が「AIのための電気」を確保するため、ギガワット級の太陽光発電プロジェクトに次々と投資し始めています。
なかでも、米Meta(旧Facebook)がわずか1週間で合計約1ギガワット分の太陽光発電を調達したというニュースは、生成AIと電力の関係を象徴する出来事として注目を集めました。データセンターとAIの拡張ペースに合わせて、電源確保のスピードも一気に引き上げているのです。
ぱっと見ると「環境に優しい企業の取り組み」にも思えますが、実際には、生成AIの成長と電力インフラがせめぎ合っている現実を浮き彫りにするニュースでもあります。これは海外の話で終わらず、日本のビジネスパーソンにとっても無関係ではありません。
この記事では、この動きを手がかりに「生成AI時代の電力とビジネス」の関係を整理し、今から押さえておきたいポイントを解説します。

生成AIの便利さだけに目が行きがちですが、「どんな電気で動いているか」を見える化しようとする動きが、世界のテック企業で一気に加速しています。Metaの1GW太陽光調達は、その象徴的なニュースと言えますね。

えっ、1社で1ギガワットって…そんなに電気を使ってまで生成AIを動かしているんですか?クラウド側の話だと思っていましたが、自分の仕事にも影響がありそうで、ちょっとドキッとしました…。
生成AIと電力インフラ:Metaの1GW太陽光調達から見えるもの
1週間で1GWの太陽光を確保した背景
報道によると、Metaは2025年10月の1週間で、合計約1ギガワット(GW)の太陽光発電を調達する3件の契約を結びました。これにより、同社が2025年に契約した太陽光発電容量は、合計3GWを超える規模になったとされています。
契約の内訳はおおまかに次の通りです。
・米テキサス州ラボック近郊:600メガワット(MW)規模の大規模太陽光発電所からの電力購入契約(2027年ごろ運転開始予定)
・米ルイジアナ州:合計385MW分の太陽光プロジェクトから、環境価値(環境属性証書)を購入する2件の契約(完成は約2年後を見込む)
テキサスの発電所はMetaのデータセンターに直接つながるわけではありませんが、同じ電力系統に再エネ電力を流し込むことで、その分だけ自社データセンターの電力使用を「実質的に」オフセットする狙いがあります。
一方、ルイジアナの案件では実際の電力ではなく、太陽光で発電されたという「環境価値」のみを切り出して購入します。いわゆる再エネ証書を通じて、自社の排出量を差し引きする形です。
なぜ生成AI企業は太陽光を選ぶのか
Meta自身はすべての意図を詳しく語っているわけではありませんが、現在の市場環境を踏まえると、次のような狙いがあると考えられます。
- 生成AI向けデータセンターの電力需要が急増するなか、建設が早くコストも下がり続けている太陽光は、拡張スピードに追いつきやすい電源である
- 再エネを調達・利用することで、自社の温室効果ガス排出量(特にScope2)の削減と、ESG評価・ブランド価値の向上を同時に狙える
- 大規模な長期契約(PPAなど)を通じて将来の電力単価をある程度固定化し、電気料金の高騰リスクをヘッジできる

要するに、「AIモデルの性能」だけでなく、「どれだけクリーンで安定した電力を確保できるか」も、すでに競争力の一部になりつつあるということですね。
「本当にクリーンなの?」再エネ証書への賛否
今回の契約のうち、ルイジアナ州の2件は、実際の電気そのものではなく環境属性証書(EAC、いわゆる再エネ証書)を購入する形になっています。これは「再エネで発電された」という価値だけを切り出して売買する仕組みで、他の電源を使っていても、帳簿上は再エネ電力を使ったことにできる制度です。
こうした証書は、市場に再エネ投資を呼び込むきっかけになる一方で、「実際には化石燃料由来の電気を使っているのに、数字上はクリーンに見せられてしまう」という批判もあります。特に、近年の生成AIブームでデータセンターの消費電力が急増していることを考えると、「オフセットだけで本当に十分なのか」という議論は今後さらに強まりそうです。
つまり、Metaの動きは前向きな一歩であると同時に、「AIの電力問題」を完全に解決したわけではありません。ビジネスサイドとしては、こうしたニュースを「なんとなく良さそう」で終わらせず、どの程度実質的な排出削減につながっているのかという視点で見ることが重要です。
日本のビジネスパーソンが生成AIで今からできること
まずは自社の生成AI利用と電力の関係を見える化する
「1社で1GW」と聞くとスケールが違いすぎて、自分の会社とは関係のない話に思えるかもしれません。しかし、生成AIの利用が広がれば広がるほど、規模の大小はあれど、電力と環境負荷の議論は避けて通れなくなります。
最初の一歩としておすすめなのは、「どこで、どのくらい生成AIを使っているのか」をざっくり棚卸ししてみることです。クラウド型の生成AIサービスだけでなく、社内GPUサーバーや、外部ベンダーのAI機能なども含めて洗い出してみましょう。
# 例:AI活用と電力を棚卸しするときのメモ項目
- 利用している生成AIサービス名(社内/社外)
- 推論・学習を行っている場所(クラウド/自社データセンター)
- 今後増やしたいAI業務(例:自動要約、コード生成など)とその頻度
- 既に利用している再エネメニューやカーボンクレジットの有無こうした簡単な棚卸しだけでも、「電力コストにどれくらい影響しそうか」「環境報告書にどこまで反映すべきか」といった議論が具体的になります。必要であれば、電力会社やクラウド事業者に、再エネメニューやCO2排出係数の情報提供を依頼するのも一案です。

「いきなり再エネ調達の議論」はハードルが高いので、まずは社内で使っている生成AIの一覧と、その重要度を書き出してみるところから始めると良いですよ。
もちろん、Metaのような規模で再エネプロジェクトに直接投資するのは現実的ではありません。それでも、クラウドサービス選定や電力メニューの見直しの際に、「価格」と並んで「電源の中身」も比較軸に入れておくことは、これからの生成AI活用において大きな意味を持ちます。
現在の状況を整理すると…
- Metaは2025年だけで3GW超の太陽光発電を契約しており、そのうち約1GWはわずか1週間で追加された大型案件である
- テキサス州では600MW規模の太陽光発電所を建設し2027年に稼働予定、ルイジアナ州では環境属性証書の購入を通じて排出をオフセットする形をとっている
- 生成AIブームを背景に、他のビッグテックやクラウド事業者も同様に再エネ調達を拡大しており、「AI=大口電力需要家」という構図がはっきりしてきた
- 一方で、証書ベースのオフセットだけでは実質的な排出削減につながりにくいという指摘もあり、今後は「量」だけでなく「質」を問われる再エネ戦略が重要になる
こうした状況を踏まえると、「生成AIはビジネスの武器であると同時に、電力インフラと環境負荷の問題ともセットで考えるべき存在になった」と捉えるのが現実的です。
企業・自治体の現場にはどんな影響が出る?
生成AIの価値と同じくらい、「電力コスト」と「環境負荷」が見られる時代になりつつあります。
これまでは、「AIサービスはクラウド側の話なので、自社の電気代やCO2排出とは直接関係ない」と考えるケースも少なくありませんでした。しかし今後は、サステナビリティレポートや取引先からの質問を通じて、クラウドやSaaSで使っている生成AIの環境負荷も含めて説明を求められる可能性が高まります。
特に、上場企業や自治体では、温室効果ガス排出量(Scope2・Scope3)の開示や削減目標の設定が進んでおり、「AIをどれだけ使うか」という議論が「どんな電源で動かすか」とセットで語られる場面が増えていくでしょう。
たとえば、
- 生成AIを含むクラウドサービスの選定条件に、「再エネ比率」や「排出係数」を加える
- 電力会社や自治体・企業として、再エネメニューやオフサイトPPAなど、クリーン電力を調達するスキームを検討する
- 社内のAI推進プロジェクトで、「コスト」「生産性」だけでなく「環境負荷」の指標も併せてモニタリングする
といった取り組みが考えられます。
結果として、生成AIの導入は単なるIT案件ではなく、経営企画・調達・サステナビリティ担当を巻き込んだ全社テーマとして扱う必要が出てくるでしょう。
まとめ
Metaの「1週間で1GWの太陽光調達」は、単なる環境アピールではなく、生成AI時代の電力インフラ争奪戦の始まりを示す出来事といえます。
もちろん、現時点で日本の一般企業や自治体が同じスケールの取り組みをする必要はありません。ただし、生成AIの活用が本格化すればするほど、「どの電源でそれを動かすのか」「環境負荷をどう説明するのか」という問いからは逃れられなくなります。
ビジネスパーソンとしては、次のような観点から準備しておくとよいでしょう。
- 自社の生成AI利用状況(サービス名・用途・重要度)を棚卸しし、電力・環境の観点も議論に乗せる
- クラウドや電力の契約見直し時に、「価格+性能」に加えて「再エネ比率」も比較軸にする
- 取引先や投資家から聞かれても説明できる、「AI活用と環境配慮のストーリー」を社内で共有しておく

今はまだ遠い話に見えても、次に生成AIの予算やクラウド契約を見直すタイミングで、「電力」と「再エネ」をチェック項目に入れておくこと。それだけでも、数年後に取れる選択肢は大きく変わりますよ。


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